第18章 ・【外伝】大王様とウシワカイモウト
「まさかバレー部。」
尋ねると文緒はキョトンとした。
「いいえ、文芸部です。どうしてですか。」
小首を傾げるあたり当人は悪気も何もないのだろう。それでも及川はついつい聞いてしまう。
「さっき俺が吹っ飛ばしたボール、随分綺麗に返してくれたからさ。もしかしておにーちゃんに触発されたのかなぁって。」
その義兄を意識してしまうせいか口調が少々意地悪になってしまう及川だが文緒はやはり気にしていないのか、まさかとんでもないと屈託なく笑った。
「私は運動が大の苦手です。皆さんの失礼になります。」
「それだけなの。」
相手が相手だ、及川は深く聞きたくなる。文緒はその、と戸惑いがちに答えた。
「兄様が色々賭けて打ち込んでいるものに中途半端に触れるのも良くないと思っています。」
「いい子だねぇ。」
及川は呟いた。本当にいい子だと思った。それなのについまた意地悪を言いたくなってしまう。
「となるとやっぱり血筋なのかな、あんな綺麗に返してくれちゃって。」
「違います。」
文緒は真っ直ぐ及川を見る。怒っている様子ではないが随分ときっぱりしていた。
「兄様にほんの少しだけレシーブを教えてもらいました。随分前ですが体育の授業で狙い打ちされたのが腹に据えかねまして。」
及川は思わずブフォッと吹いた。まさか天然お嬢様の牛島文緒から狙い打ちされてムカついたからレシーブ教えてもらいましたなどと聞くとは思わない。それに、
「ウシワカちゃんが、教えたの、文緒ちゃんに。」
「はい。」
更に及川は笑いが込み上げてくる。あの仏頂面のウシワカが妹に物を教えているところなど想像がつかない。
「あの、私何か妙な事を申しましたでしょうか。」
心配そうに言う文緒に及川は大丈夫だよと返してやった。
「ごめんね、何か意外でさー。」
「何がでしょう。」
「ん、文緒ちゃんがムカついたからやり返そうとしたってのもウシワカちゃんが教えたってのも。」
「攻撃は無理でも打ち返すくらいはしたかったんです。それに兄様は聞きさえすれば教えてくれます、いつもあんななのでわかりづらいですけど。」
「麗(うるわ)しい兄妹愛だね。文緒ちゃんもだけどウシワカちゃんも」