第18章 ・【外伝】大王様とウシワカイモウト
その時、青葉城西高校の及川徹はとある公園で甥っ子の猛に付き合っていた。甥っ子もバレーボールをやっていて徹も付き合えと言われたのである。月曜で部活は休みだったし甥っ子の面倒を見るのはよくある事でいつも通りやっていたのだが大体そういう時に限っていつも通りで無い事が起きるものである。
要は甥っ子の打ったボールを返したはいいが勢い余ってそれはぶっ飛んだ。
「ゲッ、ヤバっ。」
「あーっ、徹ーっ。」
甥っ子にも言われて及川は慌てる。ボールがすっ飛んだ先には制服の誰か、おそらくは運動などしていないであろう女子、ある程度手加減していた球とは言え当たればどう考えてもまずい。及川はダッシュしながら避けてと叫んでいた。しかしここで驚く事が起きた。その誰かが鞄を放り出す。瞬く間に誰かはバレーボールのレシーブの体勢を取りそしてバシッィと音が響いた。
え、と思う間もなくボールは綺麗に弧を描き及川の元に返ってくる。
返してきた誰かとほんの一瞬目が合った瞬間及川の背中はゾワリとした。何故か脳裏に倒したくてたまらないあの野郎の顔がよぎったのである。
実際はごく短時間の事なのに及川の目には一連の事がスローモーションのように見えていた。ほんの少し及川は硬直して、しかしハッとする。タッタッとボールを返してきた人物の元へ駆け寄った。
「すみませんっ。大丈夫ですか、って」
及川は一瞬言葉を失った。
「文緒ちゃん。」
強力な攻撃を返したリベロよろしく地面に手と膝をついたその姿は白鳥沢のウシワカの義妹、牛島文緒その人だった。
「及川さん、」
実年齢より幼く見える少女はピョコンと飛び上がり手や膝、制服のスカートをはたいて挨拶をした。
「こんにちは、ご無沙汰しております。」
相変わらず15歳にしては妙に丁寧な物言いである。お辞儀すると同時に首から何か光るものがぶら下がったのを及川は見逃さない。
「久しぶり、奇遇だねぇこんなトコで文緒ちゃんと会うなんて。」
「部活が終わった帰りでして。」
「あれ、部活始めたんだっけ。」
及川はふと目を細める。先日この義兄妹がデートなぞをしている所にでくわしたがそんな話などあっただろうか。