第17章 ・傘の話と見えない戦い
聞きつけて言う五色に白布が馬鹿かという。
「いくらあいつが天然ボケでも1-4の傘立てと3-1の傘立ては間違えないだろ。場所が違いすぎる。」
「となると後で誰かがわざわざ3-1のとこに刺したって事になるけど。」
川西が呟き、その一方で若利は考え込んでいる。
「それも問題だが」
重々しく若利は呟いた。
「文緒は傘無しでどうやって帰ったのか。文芸部はとっくに終わっている時間だ。」
「購買で傘買ったんじゃね。」
天童が言う。
「ああ、文緒さんでもそれくらいはするだろうな。」
大平が言って若利はなるほどとその時は一旦納得した。
文緒は何も知らずにいつも通り義兄の帰宅を待っていた。そろそろかなと思っていたらガラリと玄関の戸が開く。
「おかえりなさいませ、兄様。」
「ただいま。」
いつも通り若利は抑揚なく呟き、しかし文緒は何の気なしに見た義兄の片手に握られたものを見てあっと声を上げる。
「私の傘、どうして。」
「帰りに瀬見が見つけた。」
「瀬見さんが。」
「どういう訳か3-1の傘立てにあった。」
「何て事。どおりで見つからないと。」
「その事で話がある。」
何かの予感がした。
「飯は。」
「私はまだです。お母様とお祖母様は先に済ませられました。」
「そうか。なら丁度いい。」
荷物を置き、靴を脱いで上がった若利は言った。
「飯を済ませたら一緒に部屋へ来い」
無論逃げられるはずもない。文緒ははい兄様と言うしかなかった。
そういう訳で夕食を済ませてから文緒は若利の部屋にいた。今日はすぐに膝に乗せられず、若利と向かい合って正座している。対する若利は完全に説教しようとしている父親のような雰囲気だった。
「早速だが傘無しでどうやって帰った。」
若利が言った。
「文芸部は終わりがこっちより早い、まだ雨が強かったはずだが。」
「ええと。」
一瞬動揺して口籠ったのは良くなかった。若利がジロリと自分を見る。
「やましいところがないならはっきり言え。」
しかし言えば叱られるのがわかっているから文緒としてはどうしたってためらいがある。
「言えないのか。」
詰め寄る若利、更に口籠ってしまう文緒、そうしている内に若利の両腕が伸びてくる。
「こうすれば言う気になるか。」