第17章 ・傘の話と見えない戦い
あっという間に抱きしめられ、気づけばいつものように膝に乗せられていた。義兄から感じる体温が切ない。
「申し訳ありません、兄様。実は」
文緒はポツポツと事の次第を話した。
「愚か者。」
ボソリと言われて文緒は泣きそうになる。しかし逆に義兄は更にぎゅうと抱きしめてきた。
「家に連絡すれば良いものを。体を壊したらどうするつもりだった。」
「申し訳ありません。」
しょぼんとして呟く文緒、お母様やお祖母様は勿論兄様にまた心配をかけてしまったと思う。
「文緒。」
耳元で若利が言った。
「こちらを向け。」
文緒はゴソゴソして体の向きを変え、言われたとおり若利の方を向く。途端に思わぬ事が起きた。
若利の唇が自分のに重ねられていた。まさかここでやられるとは思わなかった文緒は動揺して顔を逸らそうとするが言うまでもなく不可能だ。
「何度言ってもわからぬ娘には仕置きがいる。」
何度もやりながら若利が言う。言われても仕方がないのはわかる一方文緒は嫌な予感がした。
予感は当たった。夜の風呂から上がった文緒は若利の寝床に放り込まれていた。はたから見れば仕置きではなくて褒美ではないのかと思うが文緒からすればお母様達に見られたらどうしようという落ち着かない部分の方が大きい。おまけに若利は抜かりなくベッドの横に座っている。逃げ場がない。
「逃げようなどとは思わない事だ。」
文緒に背を向けて月バリのバックナンバーを読みながら若利が言った。まだ何も言ってないのにと文緒は思う。
「それよりお前の傘が妙な所にやられていたのはどういう訳か。」
「朝は間違いなくクラスの傘立てに入れました。誰かが入れ替えたのだとは思いますが、現場を見ていない以上誰がやったのか悪気があったのかなかったのか何とも。」
「それはそうだ。」
「もう天候関係なく折り畳み傘を常備しておきます。鞄が重くなるのでしてませんでしたが家中に心配をかけてしまっては話になりません。」
「そうだな。」
呟き若利はまた月バリに目を落とす。文緒はそんな義兄の後ろで布団にくるまって顔だけ覗かせていたがだんだん目を開けられなくなってきた。