第2章 ・運命
特に問題がないから答えただけの事に対して初めて嬉しそうに笑う娘に若利は何が嬉しいのかよくわからなかった。
「何か」
一通り思い出が語られた所で天童が呟いた。
「若利君らしーねえ。」
「だな。」
若利と同じクラスの山形も頷く。更に2年の川西が口を挟んだ。
「文緒さんはさぞかし緊張したでしょうね。」
「何故だ。」
聞く若利に川西は直接答えず白布に目をやり白布は首を横に振る。若利からすればよくわからない。
「とりあえず今まで見た事のある女子とは何となく違う気がした。」
若利は呟く。
「実際蓋を開けたらその通りだった。」
「まあ初対面で兄様と呼んでいいかって聞けるあたり何気に文緒さんもやるな。」
副主将の大平が苦笑した。
「度胸と天然は血筋か。」
瀬見が言うと若利は僅かに眉根を寄せる。
「俺は天然ではない。いい加減このやりとりは何とかならないのか。」
「お前と文緒が認めない限りどーにもなんねーよ。」
「納得が行かない。」
ここで学食内にいた生徒の一部が驚いたようにどこか一点に注目し始める。続いてバタバタという音がして男子バレー部の一同もまたそれに注目した。
「あ、文緒ちゃん。」
天童が言う。噂をすれば何とやらだ。学食にいた他の生徒達も牛島の妹、いや嫁だろ、何か走ってるけどどうしたんだろなどと囁きあうのが聞こえる。
しかも文緒は体操着姿で息を切らしながら男子バレー部の野郎共のところへやってきた。大変に珍しい。
「あら兄様、それにこんにちは皆さん、お話し中失礼します。ところで」
これまた滅多に見れない急(せ)いた様子で文緒は五色に向き直る。
「五色君何やってるの、次の時間体育だよ。」
「ゲッ、忘れてたっ。」
「急いで、私先に行くから。」
「お、おうっ。」
「申し訳ありません皆さん、騒がしくて。兄様もまた後ほど。」
「ああ。」
若利はそうとしか言いようがなく、文緒はまたバタバタと学食から出て行き五色もすみませんお先に失礼しますっと高速で食器の返却に向かう。
「馬鹿だろあいつ。」
白布がボソリと呟いた。
「てか何で若利の嫁が工を呼びにくんだ。」
一方では山形が首を傾げる。