第2章 ・運命
「クラスの連中が文緒さんに頼んだんですかねえ。」
川西がうーんと唸りながら言うと瀬見がだとしたらと後に続く。
「文緒をパシリにするなんて度胸のある奴らだな。」
「ダネー、命知らずー。」
「瀬見も天童も言い過ぎじゃないか。別に若利は何も考えて」
大平は何も考えてないだろうと言いかけたのだが途中でやめざるを得なかった。ふと見れば若利が眉間に皺を寄せていたからだ。
「若利、どうした。」
恐る恐る尋ねる大平に若利はいつもより若干低い声音で答える。
「文緒を授業の前に走らせるとは何事かと。」
「何言ってるんだっ。」
慌てる大平を笑う訳には行くまい。若利の言動が唐突過ぎる。
「獅音、多分アレだ。」
フォローするのはやはり瀬見である。
「さっき文緒の奴、息切れして軽く咳してたから。」
「ちゃんと気にしていたのか、若利。」
「そういや文緒ちゃんのホントのかーちゃん、体弱かったんだっけ。」
「文緒さんは大丈夫なのかいつも気がかりって事ですか。」
「最初は無関心だった癖に極端な話だ。」
白布が呟く。
「何だかんだ言って運命の出会いだったのかもなー。」
「その結果が溺愛と過保護かと思うとどーにも。」
山形と瀬見が話している間も若利はムッとした顔のまま―慣れない者にはわかり辛いが―後で1-4に行って大事はなかったかの確認に行こうなどと本気で考えている。
運命だの何だのは彼にとって些末なことだ。ただ今はあの娘を妹としても恋人としても愛している。それだけの事だった。
次章に続く