第2章 ・運命
引き合わされた娘はとりあえず当世風でない事だけは間違いがなかった。地味なブラウスにスカート姿、貧弱な体格、15歳の高1と聞いていたがそれより幼く見える。母の言う通り素行が悪いようには見えない。だが俯き加減でプルプルしている様子に若利は一見して弱そうだと思った。
母と祖母が同席している間はお互いろくに話さなかった。そもそも若利は会話をする必要を感じていなかったのである。娘にしても主に母や祖母に聞かれた事や振られた話題に応えていて若利の方に話を振るところまで行っていない。
やがて話が一区切りついた所で母と祖母が一旦席を外した。若利にとってはどうということのない、しかし普通なら耐え難い沈黙が続く。
沈黙が破られたのは正座していた娘の膝あたりから響いた電子音によってだった。
「ああっ。」
娘が飛び上がらんばかりに声を上げる。
「何て事、申し訳ありません。」
言って娘は慌てた様子でガラケーを取り出して操作を始める。どうやら巾着袋にそのガラケーを入れて膝に乗せていたらしい。妙な話であるが後で聞けば緊張と手持ち無沙汰で落ち着かなかった為ついそうしてしまったそうだ。
「失礼しました。」
やがてガラケーをしまいこんで娘は言う。
「知らないうちにマナーモードが解除されていたようです。」
「そうか。」
今日日珍しいたどたどしい感じの妙な着信音だとは思ったがそれ以上の感想はない。またしばらく2人は沈黙する。
「ええと」
やがて口を開いたのは娘の方だった。
「バレーボールをやってらっしゃると聞いたのですが。」
若利はああと短く答える。何故わざわざ言ったと思った。
「その、長くやってらっしゃるんですか。」
「子供の頃に父から少し教わってそれから。」
「そうなんですね。」
「そっちはどうなのだ。」
とはいうものの体つきから運動ができそうには見えない。
「私は運動全般が苦手です、ご覧の通り。」
「そうか。」
話が続かないが若利はそこを気にしていなかった。
「あの」
しばらくして娘はふとこう言ってきた。
「こちらに住むようになったら兄様とお呼びしてもよろしいですか。」
おずおずと尋ねられて若利は答えた。
「好きにするといい。」
「ありがとうございます。」