第15章 ・お姫様じゃない
顔を赤くしてぷぅと膨れる文緒の様子に瀬見があ、やべ今の可愛いかもなどと思っている事など当人は知らない。
「私がこんな事を言い出したら兄様に叱られます。」
「怒られないならやるの。」
「やりません。」
「えー、ちっとくらいいんでないの。文緒ちゃんは普段我慢しすぎでしょー。」
「そのお気遣いは嬉しいですがこんなのは嫌です。」
「あはは、プライド高いお嬢様だねー。」
「寧ろお嬢様だからって気もすっけどとりあえず天童はその辺にしとけ。」
「へーい。」
結局瀬見に止められて天童は一旦引き下がり、その後はわりと普通に3人は昼食にしていた。
しかしこれで終わる天童ではない。
「若利くーん。」
放課後、男子バレー部の部室での事だ。
「今日英太君と文緒ちゃんと昼飯食っててさ」
「そうか。」
ノリノリで話す天童に対し若利はいつも通りである。
「話してたんだけど」
「何をだ。」
「文緒ちゃんはもうちょっとこうわがまま言ってもいいんじゃねって話してたんだよ。」
「例えば。」
文緒そっくりに若利が尋ねるとと天童はこれまたスマホを取り出して例の曲を再生する。
「妙な声だ。」
「合成音声だよ、若利君。」
「そうか。」
若利は呟きしばらく曲を聴いていたがだんだん眉間に皺がよってくる。その様子に天童、瀬見、山形、そして川西がおっと、と反応している事には気がつかない。
「文緒がこうなる訳がない。それにこういう事を言う娘では俺が困る。」
眉間の皺を解除しないまま若利は呟いた。
「すっげー自信、さっすがー。ね、英太君。」
「プライド高いのも血筋か。」
天童と瀬見が言っていると若利はそもそもと付け加える。
「今更愛らしいなどと言う必要があるのか。わかりきっている事だろう。」
付け加えにしてはとんだ爆弾だった。男子バレー部の連中は一瞬ピシッと固まりしばし部室の中は静かになる。
「こんのむっつりノロケ野郎。」
しばしの沈黙を破って瀬見が唸る。
「いやあお熱いねえ、若利君。」
天童がニヤニヤする。
「よくもまあそんなくっそ恥ずかしい事堂々と言えるよな、今更だけど。」
山形がひいている。
「可愛いって思ってる事は伝わったよ。」
大平が微笑みながら当たり障りなく言う。