第14章 ・おでかけします 終
「俺はまだお前をわかっていなかったという事を。」
抱きかかえられたままの文緒が目を丸くして若利を見つめ、若利はそのまま話を続ける。
「一緒に暮らすようになって随分経つ。もう大方お前の事は把握したと思っていた。だがそうじゃなかった。」
「兄様。」
「今日のお前は妙に落ち着きがないと思っていたのだがもしかしてそちらが本来のお前ではないのか。よく素(す)という言い回しを聞くがつまりそういった具合の。」
「兄様、私は敢えて隠したという訳では。」
「ああお前はそういう娘だ。ただ俺がまだ兄としての修練が足りないらしいという話だ。」
「兄様。」
「行くぞ。」
「はい。」
若利はまた義妹の手を引いてノシノシ歩く。義妹はポテポテと手を引かれながら歩く。はたから見ればアンバラスで何か不思議な光景だが当の本人達は満足していた。
その後の帰りの電車で奇しくも五色が言ったように文緒は疲れて眠ってしまった。隣に座る若利は胡乱な輩に注意しながらそっともたれかかる義妹の肩を抱き寄せている。あどけない寝顔に胸が締め付けられる思いがした。
もしかしたら自分の当面の仕事は、若利は思う。残り少なくなった子供で許される時間を文緒と満喫出来るようにする事ではないか。勿論バレーの事が優先なのは変わらないが、もうほんの少しでも今日みたいな時間を作るべきではないか。
いつになくはしゃぐ愛する義妹の姿を脳内で再生しながら若利は更に考えた。
本当に迂闊だったと思う。あれだけ嬉しそうにするならもう少し外に連れ出してやるべきだったか。勿論そのまま後悔に浸る若利ではない。次うまく休みが合えばどこへ行こうかと考えている。今日は文緒から誘ってきた訳だが次は自分の番だ。しかしどこへ連れて行けばいいものか。1人ではとんと見当もつかない。チームなら瀬見に相談、あるいは天童か。外なら及川が話が早そうだが文緒についてだけは関わらせたくない。さて。