第14章 ・おでかけします 終
そうやって兄妹は景色の良いポイントにたどり着いた。
「ガラケーも難しいが」
似合わない自撮り2回目を敢行する若利が呟いた。笑ってはいけない。
「考えてみればスマホもなかなか難しい。」
「セルフタイマーはどうでしょう、兄様。」
「そんな機能があったか。」
「アプリのメニューか設定にありそうな気が。」
「あった。」
「良かったです。」
「スマホを持っていない娘に教わるのも不思議な話だ。」
「似たものを持っていますから。」
「そうだったな。何秒が良いものか。」
「3秒はどうでしょう。」
「やってみよう。」
カメラアプリのタイマーが動く。カシャリとシャッター音が響く。スマホの画面にはやはり仏頂面に見える少年とにっこり笑う大きくはない少女が写る。
「うまく行きましたね。」
「そうか。」
スマホの画面を見ながら悪い気はしないと若利は思う。
「お前の電話に送る必要はあるか。」
若利にしてはよく気がついた。
「大きすぎて受信しきれないと思うのでパソコンのメールアドレスにお願いします。」
「そういうものか。」
「私も細かい事はわかりませんが文芸部の人からそういう事があると聞きました。」
「思うのだが」
「はい。」
「今期の文芸部は入る部活を誤っている奴がいないか。」
「きっと関係なく今日日(きょうび)の嗜(たしな)みなのでしょう。」
「そうか。」
突っ込み役がいない為そのまま呟く若利に文緒ははいと頷き、少し義兄から離れてくるりと回る。
「本当にここは景色が良いところですね。」
「ああ。」
「兄様、あちらにも行ってみたいです。何か咲いてるようです。」
「わかった。」
パタパタと先に駈け出す文緒を若利は追う。これまた珍しい義妹の姿を愛らしいと思った。
「兄様、兄様。」
「慌てると足元が危ない。」
「あら、いくら私でも平気です。あっ。」
「だから言った。」
転びそうになった義妹を抱きかかえながら若利は言う。
「兄様。」
そのまましばし動かない若利を文緒が不思議そうに呼ぶ。しかしそれでも若利は動かなかった。
「そうか。」
急に思う事があって1人呟く。
「兄様。」
「今わかった。」
何がでしょうと首を傾げる文緒に若利は言った。