第14章 ・おでかけします 終
字面では分かりにくいがこの会話の間文緒はクスクス笑っている。若利はどうにも気にくわないという雰囲気を醸し出していいから行くぞとノシノシ歩き出した。勿論2人は知らないが外から見ていた連中の多くはでかい野郎が如何にもお嬢さんな服装をした中学生の手を引いてるように思っていて何だあれ親子かとか親戚なんじゃないのとか好き勝手言っている。それもまた若利が文緒を引きずり気味だったので笑いも誘っていた。
「兄様。」
「どうした。」
「もう少しだけゆっくり歩いてくださいな。」
「すまん、どうもまだ加減がうまく出来ない。」
「もう少し私が早く歩ければよかったのですが。」
「体格は仕方あるまい。」
別に若利は文緒が短足だと言いたい訳ではない。若利が少しスピードを緩めて兄妹はまた歩く。
しばらく歩いた頃、横手から誰かがかけてきてあのと話しかけられた。もしかして白鳥沢の牛島若利さんですかとも尋ねられる。
「そうだが。」
若利が怪訝に思って答えると相手の顔が明るくなる。 話を聞いているとどうやらバレーボールをやっていて若利のファンらしい。しばらく2人は話していて—若利は例によってそうかとああが殆どだったが—文緒をおとなしく待たせている形だ。文緒がたまに義兄を見上げる姿が高校生ではなくもっと幼く見える事はこの際置いておこう。
しばし話し込んだ所で若利ははたと気づいた。
「すまんがそろそろ行く。連れがいるのでな。」
話していた相手はずっと大人しく待っていた文緒に目を止めた。ご親戚ですかと聞いてくる。
「妹だ。」
相手は一瞬固まり妹さんがいるとは知らなかったといった意味の事を言った。
「途中で貰われてきた。」
若利は答える。適当に濁せばいいものをそう出来ないのは定番だ。義妹が困って俯いている事も気づかない。相手も反応に困っているのを他所に若利は続けた。
「身寄りがなくなった娘を親が引き取った。」
そうですかと明らかに笑顔がぎこちない相手に文緒がそっと若利の袖を引っ張る。
「兄様、私の説明は良いのでそろそろ。こちらの方も他のご用があるでしょうし。」
若利はそうだなと呟き、兄妹は話していた相手に挨拶して別れた。
その後この辺りの話が一部地区の高校で広まった訳だがそれはまた別の話である。