第13章 ・おでかけします その7
「俺もそれに支えられている。お前が来てからというもの。」
「それなら何よりです、兄様。お力になれる事は少ないとは思いますが。」
「久々に一言余計だ。お前はお前の出来ることをしているだろう。」
「申し訳ありません。」
「謝る事はない。来た当初よりずっと改善している。」
「嬉しいです。」
「そうか。ところで」
「はい。」
「口を拭(ぬぐ)え。」
「ああ何て事、兄様にお見苦しい所を晒すなんて。」
文緒は恥ずかしくなり慌てて持っていたティッシュで口元を拭う。思い切り汚れていた。いつもは気をつけているのに話すのに夢中で食べ方が疎かになったらしい。
「珍しい事もあるものだ。」
呟く若利の声はほんの少しだけ笑っているように聞こえた。
食事を終えてからの2人は当初の予定通り本屋に寄っていた。大変広い店内、文緒はしばしキョロキョロする。しばらくして多分あれかなと思われる看板を見つけた。
「では私はあちらの方に。」
「そうか。」
若利の返事を聞いて文緒は一人歩き出した訳だが
「あの、兄様。」
「どうした。」
「私1人で大丈夫です。兄様も私の用事ばかりに付き合うのは退屈でしょう。」
明らかについてこようとしている若利に文緒は言ったが当の義兄は首を傾げる。
「俺は構わない。それにここは広い。」
「また迷子のご心配ですか。最悪とりあえずどこかの出口には出られますし携帯電話もあります。」
「それもだが」
「"も"ですか。」
「また俺の目が届かない所で胡乱な奴に近づかれるのは困る。」
瀬見あたりがいればお前落ち着けと言ってくれただろうが生憎そうではない。文緒はため息をつく。
「兄様、本当に私が遠くの大学に行くとか働き出したらどうなさるんですか。」
「それはその時の事だ。」
「何て事、ゴリ押しされるおつもりですか。」
「お前はまだ15だろう。」
「もう15です。」
しかしなまじ行きの電車での件がある為若利はガンとして聞かなかった。及川には御影石扱いされていたが寧ろ金剛石ではなかろうかと文緒は思う。
「それはそれとして」
一方若利は言った。
「少しでも長くお前と過ごしたい。」
ずるいと文緒は思った。義兄にそのつもりはないとわかっていても思った。