第13章 ・おでかけします その7
「兄様は本当にずるいです。」
文緒は微笑む。
「何がだ。」
「兄様からそんな仰(おっしゃ)りよう、何も言えなくなってしまいます。」
「よくわからない。」
「いいんです、私がそう思っただけですから。」
「そうか。」
「さあ参りましょう、あまりとどまっていると他の方が困ってしまいます。」
「ああ。」
はたから見ればどうにも本屋に長居しやすいタイプの文緒に若利はよく付き合ったものである。しかし実際のところ若利は特に何も考えていなかった。
「あ、あった。」
今現在若利は義妹と一緒に外国語学習関係のコーナーにいる。
「その本は。」
若利は文緒が見ている本に目をやって尋ねる。
「世界的に有名なぬいぐるみのくまさんです。」
「こんな絵だったか。」
「これは原作です、兄様。」
「そうか。読めるのか。」
「英語なので何とかと思うのですが。」
「不安があるのか。」
「万一挫折したらちょっと、と。」
「不要な心配だ。」
断言する若利、文緒が投げ出すとは本気で思っていないのである。
「あら、これも気になりますね。」
「これは。」
「世界的に有名なビーグル犬のです。」
「こんな漫画だったのか。」
「兄様には縁がなさそうですものね。」
「ああ。読めるのか。」
「漫画である分短いので。とりあえずこの犬はココナッツが嫌いなようです。」
「そうか。」
「あ、こんなのもある。」
「これは。」
「マザーグースです、兄様。」
「誰がコマドリを殺したとかいう激しい奴か。」
「もっと激しいのだってあります。」
「例えば。」
「アメリカで起きた事件を題材にしたものがあります。縄跳び唄だとか。」
「容赦のない話だ。お前と縄跳びをするのは控えよう。」
文緒があら何て事、とクスクス笑いながら言った。どうやら冗談だと理解したらしい。
「そらんじられてはかなわん。」
「覚えてるとは限りませんよ。」
やはり笑う文緒に若利はボソリと言った。
「お前の覚えていないはあまり信用出来ない。」
突っ込み役が不在の為、妙な会話が止まらない。それも当人らは完全に楽しんでいる。