第11章 ・おでかけします その5
「ところで」
文緒が行った所で若利はふと振り返る。
「何か用か。」
言うまでもなく視線の先には青葉城西の及川と岩泉がいた。
「ヤッホーウシワカちゃん、お久ー。」
「その呼び方はやめろ、及川。それより先程から後をつけていたようだがどういうつもりだ。おまけに岩泉までとは。」
「それについてはマジでわりぃ、そこのクソ川が言い出して聞かなくてよ。まさか放置する訳にも行かねーし。」
「それはもっともだ。」
そのまま納得する若利に及川がちょっと、と唇を尖らせる。
「変なとこで納得しないでくれる。てかさ、ずっと知らないふりしてたの。」
「途中で気が付いた。」
「黙ってるなんてウシワカちゃんも人が悪くなったねえ。」
「文緒が楽しんでいる所に水を差したくなかったのでな。」
若利が言った途端、及川と岩泉はキョトンとした。
「何か言いたげだな。」
「ウシワカちゃんが気遣いするなんて。」
「意外な事もあるもんだな。」
岩泉の言葉に若利は眉間にしわを寄せる。
「どういう意味だ。」
「そんままの意味だ。」
「俺を何だと思っている。」
「バレー以外ニブチンじゃないつもりだったのか。」
「他校にまで言われるのは納得が行かない。」
「夫婦揃って頑固もんが。」
「確かに文緒の頑固さには手を焼く。未だに天然ボケと認めたがらない。」
「全部おめーに返ってんぞ。」
「それとあれはまだ嫁じゃない。」
「岩ちゃん案の定嫁にする気まんまんだよ、こいつ。」
「天然同士ってのがはたから見ても不安だけどな。」
「俺は天然じゃない。」
「ほんっと頑固。何なのウシワカちゃんの頭は御影石で出来てんの。」
「兵庫県がどうかしたのか。」
及川と岩泉は一瞬硬直し、次の瞬間控えめに吹き出した。
「ちょ、ウシワカちゃん、今のって」
「まさかじょーだんのつもりか。」
笑いでプルプル震える幼馴染コンビを責めるわけには行かない。おまけに
「そうだが。」
当の若利が答えてしまう為余計に笑いを誘う。
「ウシワカちゃん、何かあったの。」
及川の8割がたおちょくっている問いに若利はこれまた真面目に答えた。