第11章 ・おでかけします その5
「お前といると学ぶ事が多い。」
「そうでしょうか。」
「知らない世界が垣間見える。」
「大袈裟です、兄様。」
「事実だ。お前がいなければこういう所に来る事もこういった作品を見る事もきっとなかった。」
正直に呟く若利に義妹は嬉しそうに微笑んだ。
最後の展示室を出た所で文緒がハアアと感嘆のため息をついた。
「来て良かったです。」
「そうか。」
「古いものから近代のまで色々見られたのが特に嬉しいです。変化に富んで楽しかったです。」
「そうか。」
「豪華な装飾のものもシンプルで抽象的なものも捨てがたいものですね。」
「そうか。」
はたから見れば兄が適当に流しているように思えるがその実若利は真面目に義妹の話を聞いている。しかしどうにも他の言葉が見つからない。
「兄様はどうでしたか。」
「目の保養にはなった気がする。」
「良かったです。」
「突き詰めると奥が深い事はよくわかった。」
「そうですね。」
「そろそろ出るか。」
若利は呟いて出口に向かおうとしたが珍しく義妹が自分の服の袖を引っ張ってくる。
「申し訳ありません兄様、少しお待ちください。」
「何か買うのか。」
若利は最後の展示室を出た先にあったグッズの販売コーナーに目をやった。
「図録を買いたいです。あとお母様とお祖母様に絵葉書を。」
「そうか。」
せっかくの機会だ、付き合ってやる事に異論はない。
「この辺りで待っている。」
「ありがとうございます。」
「焦る必要はない。」
「はい。」
文緒はポテポテと販売コーナーへ向かっていった。