第11章 ・おでかけします その5
「待てこのくそったれ。」
岩泉は唸った。
「やっぱり俺も行く。」
「岩ちゃんやっぱ優しー。」
「放置したら何するかわかんねーからな。」
「俺トラブルメーカーじゃないんだけど。」
「まで行かなくてもいらんことしぃだろが、ゴタクサうるせえ。入るんならとっととチケット買うぞ。」
「あっやばい、ウシワカちゃん達見失うっ。」
「場所が場所でなかったら蹴り込んでるとこだわ。」
ブツブツ言う岩泉の苦労はもうしばらく続く。
牛島兄妹はというと館内に入って展示会場のフロアに到着していた。でかさで人目をひいている事を全く気にせず—というより気がついていない—若利は普段来ない所に興味をそそられて辺りを見回している。勿論義妹の手は握ったままだ。多少囁きや騒(ざわ)めきが聞こえるものの基本は静かな空間、普段身を置いているバレーボールの試合会場とは正反対だ。
「兄様、どうかされましたか。」
義妹が不思議そうに見上げてくる。
「少し物珍しかった。」
「そうですか。」
「どこから見る。」
「順路はあっちのようです。」
「そうか。」
義妹の手を引いたまま若利はノシノシと歩き出した。
最初のガラスケースの中、早速目に入った展示物に若利は珍しく目を奪われた。
「美しいな。」
文緒が頷く。ガラスケースの中、ベースは透明で表面に細かい文様が入っている蓋付きのゴブレットが展示されていた。
「随分と繊細な作りだ。」
「きっと彫っているのだと思います、兄様。あ、書いてありますね。」
「そうか。」
「これだけの細工、さぞかし手間がかかったでしょうに。」
「そうだな。」
呟く若利はガラスケースを覗き込む義妹の横顔にふと目をとめる。文緒は微笑んでいた。何よりだと思う、一緒に暮らすようになってから義妹の笑っている所を気に入るようになった若利としては。しばらく中のゴブレットをしげしげと眺めていた文緒は次の展示物へと移動するがおそらく無意識だろう、足取りがいつもより軽い。
「兄様兄様、」
場所が場所なので抑えてはいるものの物言いもいつもより興奮気味である。
「見てください、あれも素晴らしいです。」
「少し落ち着け。」