第11章 ・おでかけします その5
「はい、兄様。」
博物館入り口の側で文緒が鞄をゴソゴソと探ってチケットを取り出していた。それをすまないと呟く義兄の大きな手に乗せる。知った顔の奴らが自分達兄妹の背後をつけている事には気付かないままだ。
「自分のはどうした。」
チケットを渡された義兄が呟くと文緒はああと返事をした。
「前の日にコンビニで買ったのがここにあります。受付で買っても良いのですが兄様をお待たせするのも何でしたから。」
「手回しがいいな。」
「恐れ入ります。」
お前らは上司と部下かと突っ込みたくなるが置いておこう。そんなやり取りを経てふと若利がガラスの自動扉からチラチラ見える人影に目をやる。
「今回は人気のある展示なのか。」
「一般的かどうかはわかりませんが好きな方は好きだと思います。」
「そうか。」
「入りましょう。」
「ああ。」
ポテポテと文緒が先に行き、若利はその後をまるっきり子供の付き添いに来た親のような様子で歩くのだった。
一方つけてきた奴らである。
「博物館来ちゃったよ、岩ちゃん。」
「渋い趣味だな。」
「きっと文緒ちゃんの趣味だよ。ウシワカが誘ったのかな、まさかね。」
「何でもいいわ、もー気が済んだろそろそろ行くぞ。」
早くもうんざりしていた岩泉はとっとと去ろうとするがあろう事か相方が入り口の脇から動かない。
「おいまさかてめー。」
「中入る。」
「普段ゲージュツもへったくれもねえ癖に何言ってやがる。」
「だって気になるもんっ。」
岩泉はブチリと来た。これは責められない。
「こーの大馬鹿野郎っ、自分が暇だからって訳わかんねー事に付き合わせやがって俺の身になりやがれってんだ行くなら1人で行けこの根性なしがっ。」
「わかった。」
「あん。」
「じゃ俺1人で行ってくるー。」
及川は無駄ににこやかな顔でじゃーねーと手を振るが岩泉は途端に嫌な予感しかしねえと思った。放置しているとこの幼馴染は館内でウシワカ兄妹に不要なちょっかいをかけそうな気がする。思わず頭の先から八分音符を飛ばしている勢いの及川の首根っこを掴んでいた。