第10章 ・おでかけします その4
更に2人はノシノシポテポテと歩く。
「兄様、ちょっとお待ちください。」
「すまん。」
「あのやはりこれだと逆に兄様が歩きにくいのでは。」
「人の多い所でお前を離す訳には行かない。」
「兄様、私を犬か何かの飼いものと思っておられませんか。」
「小動物を連想する事はあるが飼いものとは思っていない。」
「連想はなさるのですね。」
「最近キヌゲネズミを愛でる奴の心境がわからなくもないと思う。」
「何て事、人をハムスター扱いだなんて。」
「確かにネズミとは出かけられない。」
文緒は吹き出しそうになった。
「兄様、今のはもしや。」
若利は頷く。
「今だにユーモアと言うのは俺にとって敷居が高い。」
「兄様が仰ると真面目に聞こえますものね。」
「だがお前には多少通じる。」
「一緒に住んでるからでしょうか。ユーモアと言えば元はラテン語で体液の事だとか。」
「そうか。」
「何がどんな変化をするかわからないものですね。」
「ああ。」
駅から博物館へは道なりに行けばそう遠くはない。2人はその短い道中そんなどこかズレた—当人らは普通だと思っている—やりとりをしていた。