第10章 ・おでかけします その4
一応気遣ったつもりらしい。文緒は汲み取ってはい兄様と微笑むがふいに肩を若利に引き寄せられてしまう。
止まった駅で同じ高校くらいの男子の集団が乗ってきたのだ。しかも1人が文緒の横に座り、自然に野郎共は牛島兄妹の周辺に固まることとなる。明らかにちぐはぐな2人—しかも言われなければ兄妹とはわからない—が目につくのか大人以上に2人を見ては目配せしている。
やがて文緒の隣に座った奴が何を思ったのか文緒の髪を一房摘んで引っ張った。文緒は騒がず無視するが仲間らしき連中はクスクス笑っているし、やった奴は調子に乗ってまた同じ事をする。今日日小学生でもやるかどうか怪しい。とは言え流石にたまりかねて文緒は義兄の方に身を寄せた。もう一回やられた所でとうとう異変を感じたらしき義兄が動く。
「俺の妹に何か用か。」
さりげなく片手で文緒の側頭部をかばいながら低く言う若利の声は言うまでもなく迫力がある。相手はたちまちのうちに固まってモゴモゴと何でもないですと呟いた。
「妙な真似をされているのならもう少し早く言え。」
野郎共が大人しくなりやがてどこかの駅で降りた所で若利はよっかかっていた文緒に呟いた。
「申し訳ありません、何度もされるとは思いませんでした。」
「五色の言った通りだな。」
「五色君は何を。」
「帰りの電車で胡乱な奴がお前の隣に来たら注意しろと言われた。結局行きで起きてしまったが。」
「ああ、何て事。」
次から次へと今回の外出についてはどうも男子バレー部の面々が妙に関わっていているようだ。文芸部も大概だったが随分と話が大きくなっていると文緒は思う。既に川西、瀬見と心配され今度は五色と来たものだ。面白いが大半を占めていそうな天童と阿呆くさいが9割であろう白布を除くと大平や山形にまで心配されているのではないかと逆に自分の方が心配になってくる。
「嘆く必要はない。皆お前を気にかけている。」
「寧ろ兄様を心配されている気もします。」
「何故だ。」
「どうしよう、この人。」
言っている間に電車は目的の駅に到着して若利はやはり義妹の手を離さないまま電車を降りて改札を出た。