第10章 ・おでかけします その4
そんなこんなで牛島兄妹は電車に乗る。ぶっちゃけ人目を引いていた。
でかくて黙っていると威圧感が凄い野郎が見た目は幼くて当世風ではない雰囲気の少女の手を引いているのである。座席に座るときっちり若利の隣には誰も座らない。おかげで兄妹の周囲は何だか不思議な事になっていた。
「兄様、」
文緒はおずおずと義兄を呼ぶ。呼んだ瞬間に聞こえていた他の乗客が兄様呼びにさりげなく反応していたがそれには気づかない。
「今くらい手を離しても大丈夫です。」
しかし若利は離さない。
「降りる時に繋ぎ直すのは少々面倒だ。」
「繋ぐのは決定なのですか。」
「嫌なのか。」
「嫌ではありませんが兄様が疲れるのではと思って。」
「俺は問題ない。」
「そうですか。」
「まだ何かあるのなら言え。」
文緒は少し躊躇(ちゅうちょ)したが言えと言われたのならばと考えた。
「人目が気になります。」
「何故だ。」
若利は本気で言っている為タチが悪い。
「若い衆が必要以上に戯れていると思われてる気がしてなりません。」
文緒が言うとどうも古風かつ難しくなるがつまりは人前でイチャつきやがって最近の若いモンはと思われていたらどうしようという話である。実際兄妹をチラチラ見ている乗客が何人かいたのだ。
「問題ない。」
一方いいのか悪いのか若利は堂々としている。
「兄が妹を連れているだけだ。」
「兄様、事情を知っている方ならともかく多くの方は兄妹とは気づかれないと思います。」
「何だろうとこちらにやましい所はない。」
きっぱりはっきり言ってから若利は一瞬だけ間を空けてこう付け加えた。
「気にしすぎるのはお前の体に悪い。」