第45章 ・聖夜、光の中で
文緒はしばし動揺していたがやがてふと思いついた。後でかなり恥ずかしくなることは必須だがそうも言ってられないと考える。文緒は高速で辺りを見回した。幸い今も人目がない事を確認して若利の方に両腕を伸ばす。どうかしたかと若利が屈(かが)んだところで文緒は義兄に抱きついていた。
「文緒。」
義兄がほんの少し動揺した隙を逃さない。次の瞬間、文緒は自ら義兄と唇を重ねていた。しばらく時が止まったような感覚がした。
「今はこれでお許しください。」
やがて義兄から離れて文緒は笑ってみせた。実際は心臓が早鐘を打っていてともすればそのまま飛び出すかもしれない心持だったのだが。
「随分と大胆な娘になったものだ。」
ふうと息をついて若利が呟く。
「兄様以外の方にしたりしません。」
「当然だ。」
若利は言って立ち上がりながら文緒を抱き上げる。
「瀬見に持ち上げるなと釘を刺されていたのだがこれでは仕方あるまい。」
勿論文緒も今回は抵抗しない。
「知れたら2人共瀬見さんに叱られそうですね。」
「そうだな。」
若利は文緒を抱きしめたまま、文緒も義兄に抱きついたまま離さない。
「ずっとお慕いしております、若利兄様。」
「ああ。」
若利がギュウと腕に力を込めた。
「愛している。」
向こうのイルミネーションの光が2人を祝っているように見えなくもなかった。