第45章 ・聖夜、光の中で
「大丈夫です。今度はうまく行きました。まあ、最近のスマホは本当綺麗に撮れますね。」
「そうだな。」
「兄様、今度は一緒に。」
「ああ。」
例によって若利がスマホを掲げて自撮りの体勢を取る。パシャリとシャッター音が響いた。
更に時折写真も撮りながら兄妹は歩く。何だか夢みたいだと文緒は思っていた。誰よりも愛する義兄と2人で光の中を歩いている。片手はほとんど義兄に握られたまま離れる事がない。たまに頭がぼうっとするのは気のせいだろうか。
「兄様。」
ふいに義兄を呼んでしまっていた。
「どうした。」
怪訝な顔で振り向く義兄に文緒は慌てる。
「申し訳ありません、意味もなく呼んでしまいました。」
「そうか。珍しい事だ。」
義兄はそれ以上突っ込まない。そして文緒は安心する、これは夢ではないと。
やがて通りを抜けた。そのまま何となく真っ直ぐ歩き続けて気づけば人気のない少し暗い所に入っている。
「ふぅ。」
突き当りまできた所で文緒は思わず息をついた。
「疲れたか。」
「ほんの少し。」
「遠慮する必要はない。少し休もう。」
「はい、兄様。すみませんが座ります。」
文緒はしゃがみ、若利は隣で立ったまま何やらコートのポケットをゴソゴソとしている。どうしたのだろうと文緒が思っているとやがて若利はポケットから小さな紙包みを取り出した。
「文緒。」
ふいに呼ばれた。
「これを。」
言って義兄は一度しゃがんだ文緒を立たせてその手に包みを置く。既に今日は色々驚いたのに文緒は更に驚いて手の中の包みと若利の顔を交互に見た。
「ええと。」
「お前に。」
戸惑いながらも開けてみてよいか尋ねると若利はゆっくりと頷く。文緒が手袋をしたままの手でそおっと包みをあけるとスマホ用のストラップが出てきた。
「気にいるといいのだが。」
「有難うございます、兄様。でも何て事、私今お返し出来るものを持っていません。」
「必要ない。お前が喜んでいるのが肝心だ。」
「そんな。」