第41章 ・思い出
とは言うものの程なく文緒は着替え終わった若利から呼ばれた。ポジションはもちろん若利の膝の上である。その若利は例の写真を手に取ってじっと見つめている。
「初めてお会いした時、」
しばしの沈黙の後文緒は呟いた。
「子供の頃にお父様から教わってそれからずっとバレーを続けているというお話でしたが」
「ああ。」
「写真のこの方がお父様ですか。」
「そうだ。よくわかったな。」
よくわかるも何もと文緒は思う。
「眉の辺りがそっくりです。」
「そうか。」
義兄はあまり自覚していないのか。
「優しそうな方ですね。」
「そうか。」
「お父様はバレーの選手だったのですか。」
「ああ。2部リーグの選手だった。知っての通り今は家にいない。」
「そうですか。」
文緒はくるりと体の向きを変えて若利の胸に顔を埋める。若利の溺愛ぶりが目立つので隠れがちだが文緒も大概義兄に甘えるようになっていた。
「ここしばらくでお会いになったことは。」
「長らく会っていない。万一会うとしたら」
若利は呟く。
「お前を紹介せねばなるまい。」
「そうですね、私もご挨拶したいところです。」
「俺も嫁を貰ったと報告する必要がある。」
若利が呟いた途端文緒は飛び上がりそうになった。
「どうした。」
どうしたも何もない。
「兄様、話が早すぎますっ。」
「何がだ。」
「いつもまだ嫁じゃないと仰るのに。」
「その頃にはもう嫁の可能性がある。」
さらりと物凄い事をしかも本気で言っている。
「嫌なのか。」
「嬉しいのですが何も今からそんな。」
「俺はもう決めている。」
若利は言って義妹を抱きしめる。
「他に渡すつもりはない。」
「兄様。」
「その為のこれだ。」
文緒の首から下がるボールチェーンを若利が摘み上げた。IDタグに似たペンダントトップがジャラリと音を立てて滑る。
「兄様ばかりやっぱりずるいです。」
文緒は義兄に抱きつき直してふふと笑った。
「私だって兄様を他の子に渡したくないと思っているのに。」
「そうか。だが案ずる必要はない。」
「承知しました。」