第41章 ・思い出
その時は休みの日で文緒は畳んだ洗濯物を義兄の若利の部屋に運んでいた。義兄はバレー部の練習で今はいない。いつもの事なので文緒は気にせず洗濯物を片手に義兄の部屋に入る。
不在がちである事も手伝ってか部屋はいつも綺麗に片付いていた。本棚に詰まっているバレーボール雑誌のバックナンバーや机の近くに転がっているバレーボールが若利らしい。文緒は思わずクスリと笑いながら洗濯物を片付けている。しばし作業して終わったので行こうとした時である。
「あれ。」
若利の机の上に写真立てがある。いつもここにあっただろうか。気になって文緒はついそれを覗きこんだ。
「あら可愛い。」
写っているのは幼い頃の義兄、妙に真面目な顔は今と変わらないのが面白い。きっちりバレーボールを抱えている。写真にはもう1人大人が写っていた。穏やかにかつ照れ臭そうに微笑む男性だ。
「この方は」
知らない人物ではあったが文緒はすぐに誰だか察した。今はこの家にいない人物、詳細は聞かされていないけれどもしかしていつか会う事もあるのだろうか。
そんな事を考えている時だ。
「何をしている。」
文緒は飛び上がらんばかりに驚いた。
「に、兄様。」
何と部屋の入り口に義兄の若利がいた。
「今日も練習だったのでは。」
「早く終わった。」
「そうでしたか。おかえりなさいませ。」
「ただいま。で、話は戻って何をしている。」
「洗濯物をお持ちしたところでした。」
「そうか。」
「そうしたらついそこの写真が気になって。」
悪い事は多分していないと思いつつも動揺して早口になる文緒に若利はそうかとだけ呟きノシノシと近づいて机から写真立てを取り上げる。
「昔の写真だ。」
「兄様が可愛いです。」
「お前に言われると何とも言えない心持ちだ。それより着替えたいのだが。」
文緒は大慌てですみませんと言いパタパタと義兄の部屋を出た。