第40章 ・義兄、遠征中の話 終わり
「おかしなものだ。」
思わずそう口にしていた。隣の席にいた選手がどうしたのかと聞いてくる。
「すまん。独り言だ。」
隣の選手はそうかと言いそれ以上は踏み込んでこない。しかし
「考えていた。」
若利は敢えて続きを語った。珍しく学校のチーム以外の誰かに聞いてもらいたいと思ったのだ。
「妹を貰った当初は特に思う事などなかった。なのに今は家で淋しくしているのではと気になる。まさか自分がここまであの娘を思う事になるとは予想がつかなかった。どうしてこうなったのか自分でもわからない。おかしなものだ。」
隣の選手はおかしくないと言った。何があるかなんてわからない、ある日突然誰かを好きになるかもしれないし好きだったけど嫌いになるかもしれないしそんなもんじゃないのかと。
「そうか。」
若利は呟いた。
「そういうものか。」
隣の選手は頷き言った、とにかく妹が大事ならそれでいいんじゃないかと。
「そうだな。」
言う若利の顔は無意識に微笑んでいた。が、ここでただしと隣の選手は付け加えた。
「む。」
すぐいつもの顔に戻る若利に隣の選手は言った、だからと言ってやたら妹可愛いとかいつか嫁にするとか言い回っていいって事じゃないからな。
「俺は事実を言ったまでだ。」
隣の選手はダメだこりゃとため息をついた。
いつの間にか地元に到着し、若利は自宅へ向かう。すっかり夜で特に迎えはないけれど問題ない。むしろ母や祖母がいない中義妹が迎えに来ようものならそちらの方が問題だと思う。ノシノシと暗い道を歩きやがて家が見えてきた。ついている明かりは少ない。うち一つはおそらく義妹の文緒の部屋、若利は少し歩みを速めた。
そうして自宅にたどり着いた若利がガラリと玄関の戸を開けると
「兄様っ」
聞き慣れた声が響いたかと思えばガバッと音がして義妹が飛び込んできた。
「お帰りなさいませ。」
「ただいま。」
若利はその体を抱きとめて義妹はきゅうとしがみついてくる。いつもは行儀よく座って迎える義妹が珍しい。メールのやり取りでは特に寄越していなかったがやはり多少なりとも寂しく思っていたのか。