第39章 ・義兄、遠征中の話 その5
「文緒さーんっ。」
聞き覚えのある高い音域の声に文緒は振り向く。
「日向、影山君、谷地さん、お久しぶり。」
烏野1年陣である。
「久しぶりー、夏休みはサンキュなっ。補習とかになんなくて助かったっ。ほら影山っ。」
「あ、あざっす。」
「力になれたみたいで良かった。でも主将さんには怒られたって言ってたけど。」
「うぐ、それはそれっ。」
「菅原さん、うちの副主将の人にもウシワカんとこの天然娘巻き込む奴があるかって言われちまった。」
「何だよ影山巻き込まれたみたいな言い方すんな、お前だって一緒に頼んだじゃんっ。」
「それより私烏野の皆さんから完全に天然ボケ扱いされているのが気になるんだけど。」
「ま、まぁみんな文緒さんの事悪く思ってないからそう言わずに、ね。」
「ならいいんだけど天然は兄様だって事は言っておきたいな。」
「う、うん、そだね。」
谷地が目をそらし文緒が首を傾げていると日向がそーそーと言いだす。
「ウシワカと言えばさ、何か文緒さんが大好きって外で言いまくってるってホント。」
聞かされた瞬間文緒はくらっとして倒れそうになる。慌てた谷地がその背を支えたので本当には倒れなかったが文緒からすればひどい話である。
「日向までそんな話どこで聞いたの。」
片手で目の当たりを覆いながら文緒は尋ねた。
「研磨からっ。」
「どちら様。」
「東京の音駒高校のバレー部でセッターやってる奴っ。すげーうまいんだぜっ。」
「そうなんだ。日向も大概顔広いね。」
「で、その研磨は赤葦さんから聞いて、赤葦さんは更に知ってる人から聞いたって。」
「赤葦さんってどなた。」
今度は谷地がこれまた東京の梟谷学園高校のバレー部セッターである事を教えてくれる。文緒はますます気が遠くなる思いだ。