第37章 ・義兄、遠征中の話 その3
相手は可愛がってるんだなと呟くが当然困惑気味だ。
「学校のチームの連中には過保護だの溺愛だのと言われる。ただ今も納得が行かない。妹を愛らしいと思ってはいけないのか。」
いけなくはないけどという相手の答えに若利はそうかと満足する。
「今度こそ喋り過ぎた。寝るとしよう。」
そうして彼らは眠り始める訳だがずっと話を聞いていた同室の選手は布団をかぶる直前に若利が微(かす)かに笑っていたのを見たという。
それだけ夜中に溺愛ぶりを示していてもバレーの時は全くもってブレないのだからこの辺りはあの白鳥沢学園高校の主将にして高校バレー界の三大エースに数えられるだけの事はある。文緒の事さえ口にしなければ遠征中の牛島若利は大方のイメージ通りどこまでもストイックでかつ威圧感が半端ではない。だがしかし
「今の所は無事らしい。」
また練習中の休憩時間、若利はそう言っていた。前日に続いて義妹の事を聞かれたのである。
「今朝メールの返信が来た。」
まず第一に朝っぱらからいちいち送ったのかという疑問が湧く。勿論聞き手から早速同じ事を聞かれた。
「念の為だ。」
勿論若利は普通だろうと思っている。誰かがもう15なら大丈夫だろうと言うが当の兄は頑として聞かない。
「愛らしいのはいいが人目を惹く。」
まずここで聞き手達はブッと吹く。気がつかない若利は話を続ける。
「1人で真逆の他校へ寄り道する。」
聞き手達はおおと興味を示し若利は更に続ける。
「基本は大人しいが不義理を見かけたり喧嘩を売られると看過出来ない。」
マジかと聞き手達は食いつく。そして若利はこう言った。
「そもそもあまり人を疑わない娘だ、こうも揃っていると気にするなという方が無理だろう。」
聞き手達の一部が堪えきれずにブフォッとなった。とりあえず若利は最初に妹可愛いんですを強調するのをやめた方がよいと思われる。聞き手からすれば大笑いをこらえるのに苦労するところだ。そんな中で別の誰かが妹もバレーやるのかと聞く。
「やっているという程ではないが俺がたまに教えている。」
若利の答える様子はどことなく聞き手達に人間味を感じさせた。