第37章 ・義兄、遠征中の話 その3
「体育の時間にバレーで狙い撃ちをされて腹に据えかねた、レシーブを教えて欲しいと言ってきたのが最初だったが。」
なるほどちっと好戦的だなと誰かが呟き、また別の誰かが妹はうまいのかと聞く。
「いや。」
そこははっきりと若利は否定した。それでもだがと付け足すのは今までの牛島若利なら考えにくかったかもしれない。
「レシーブはうまくなった。それにまったくどうしようもない娘でもない。少しずつでも出来るようになってくれたら俺は嬉しい。」
いつもの淡々とした口調とほぼ動かない表情の癖に若利は何となく嬉しそうな雰囲気を醸し出しており、聞き手達はこっそりと顔を見合わせて微笑み合う。だがしかし
「後は遊山などに時間を使いたい所だがなかなかそうも行かない。」
無意識にオチをつけてしまうのが若利クオリティだった。
「1人の娘を愛するというのは難しいな。」
ふうと若利は息をつくが何も考えずに口にした最後の一文が聞き手の選手達ほぼ全員を絶句させた事に気付かない。そうして若利によって天然由来成分の爆弾をぶち込まれたまま休憩時間は終わり、ぶち込んだ本人は途端にいつも通り練習に打ち込むのだった。
勿論この後話は遠征に参加している連中に光速で伝わり、更に後になって妙な所へ広がったりするのだがそれはまた先の話だ。
次章に続く