第5章 ・皇帝ペンギン
それはともかく日は流れてまた別の日の朝練前のことである。
「思い出したアアアアア。」
朝から天童がやかましい。
「天童うっせぇっ、耳いてーわっ。」
「そういう英太君だって声デカイっ。」
「どっちもどっちです、阿呆くさい。」
「白布、阿呆って言うな。」
「この場合は良いでしょう。」
「カァいくねー。」
「で、天童さん何を思い出したんですか。」
火花を散らしかねない瀬見と白布に割って入るかのように川西が言う。
「若利君が文緒ちゃん膝に乗っけてる時何に似てるか思い出したっ。」
「何だったんだ。」
大平が尋ねると天童は無駄にフフンと得意そうな顔をして言った。
「皇帝ペンギンっ。」
たちまちのうちに野郎共の多くがブーッと吹いた。吹かなかったのは白布でしかしこいつも内心なるほどと納得してしまっている。
「ちょ、おまっ。」
瀬見が笑いでヒクヒクしながら言う。
「皇帝ペンギンてあれか、雄が足の間で卵抱くからか。」
「うん。休みん時にTVでやってたの見て思い出した。」
天童が頷くと更に野郎共は腹を抱える。
「言うまでもなく若利君姿勢いいしねー。」
「やめろバカヤロ、うっかり想像しちまったじゃねーか。」
山形は笑いを我慢しようとしすぎて顔が引きつっており、横では川西が思い切りブフォッとなっている。
「お前らやめなさいよ、今若利がいないからって。」
「そういう、大平さんだって、めっちゃ顔が笑ってますっ。」
五色が駄目だ俺我慢できないといった様子を見せながら言う。多分もうほんの少し何かのきっかけがあればこいつは爆発的に笑い出すだろう。
「でも」
ここで白布がまさかの事を口にした。
「牛島さんの場合は天敵が来てもぶん殴って撃退しそうですよね。」
止めだった。部室内で野郎共の笑いが爆発した。五色、天童、山形が文字通り笑い転げる。大平と川西はまだ控えめだがそれでも肩が震えている。瀬見も笑いすぎて目に涙が浮かんでいる。