第33章 ・【外伝】尊敬
「あの、妹さんがきてから何かあったんですか。」
「何がだ。」
上から見下ろす若利の顔は威圧感があったがこの時寒河江は何故か怖くなかったという。
「何かその、雰囲気が変わった気がして。」
「色々あった。」
若利は呟く。
「文緒が来てから覚えた事も多い。だがどうにもユーモアがまだよくわからん。文緒には多少通じるのだがしばしば何か違うとも言われる。」
寒河江と赤倉は吹き出しそうになった。
「ユーモアというのは練習出来るものか。」
あくまでも真面目に尋ねてくる主将に赤倉がポツリと呟いた。
「敢えてってより人の聞いて慣れるってとこすかねえ。」
「そうか。」
いいのか悪いのか主将は頷き、ノシノシと去っていった。
「俺らもしかして」
寒河江は主将に聞こえないように言った。
「牛島さんのこと実は人間って思ってなかったんかも。」
赤倉はかもなと返した。
後日の朝である。
「おはよう、寒河江君。」
寒河江が廊下を歩いていたら牛島文緒に挨拶された。珍しいかもしれない。
「よう、嫁。」
「嫁じゃないよ、ロリータでもないからそんな目で見ないで。」
天然お嬢様にかなり頑張った先回りをされた。
「それより昨日はごめんね。」
「や、別にいーけど。何かお前も大変そうだな。」
「兄様は天然な上に頑固だから。」
「お前が言うか。」
「何か言った。」
「いや別に。」
寒河江は誤魔化して話を変える。
「お前凄いよな。」
「急にどうしたの。」
首を傾げる文緒に寒河江は答えた。
「俺らがいまだに近寄れねーって思っちゃってる牛島さんに突っ込んだりとかしてさ、ユーモアがどうとか言わせるレベルにしてんのが。」
しかし牛島文緒は凄くないよと首を横に振る。
「瀬見さん達が兄様に言ってくれなかったら私だってずっと寂しいけど我慢して兄様とほとんど話さないままだった。私は何もしていない。」
「そーかぁ。」
寒河江は疑問形で言う。
「俺だったらそれでも牛島さんと面と向かって色々言えねーわ。」
呟いてつい遠い目をする寒河江にしかし文緒は微笑む。