第33章 ・【外伝】尊敬
ここで文緒の視線の先が変わったので笑いをこらえていた寒河江と赤倉はギクっとする。
「寒河江君達も、私は嫁じゃないからね。」
「えっ。」
寒河江は口を滑らせた。
「文緒、落ち着け。」
「ですが兄様」
「寒河江はユーモアのつもりだったのだろう。」
「若利君、なかなか良い返しするよーになったねえ。はいはい文緒ちゃんは突撃体勢に入らないの、そろそろ鍛治君来ちゃうよ。怒られたくないでしょ。」
「それは困ります。申し訳ありません、失礼します。あと兄様、ご飯はいかがなさいますか。」
「帰って食べる。」
「承知しました。では。」
そうして牛島文緒はポテポテと去っていく。
文緒の姿が完全に見えなくなってから赤倉がなぁと呟いた。
「あれで嫁じゃないつもりかな。」
「気づいてないんじゃね、あいつ何気に天然だし。」
寒河江は答え赤倉は確かにとクスクス笑う。が、ふいにノシノシとやってきたでかい姿に2人とも固まった。
「すまんな、うちの文緒が。」
寒河江と赤倉は急な事にビクッとしてやり過ぎレベルの気をつけをした。あの主将がいうなればモブと呼ばれるような自分達に話しかけてきたというだけで驚愕ものである。
「いいえ別にっ。」
「気にしてないっす。」
「そうか。たまに売られた喧嘩を買う節があるが悪い娘ではない。妙な事に巻き込まれている時は助けてやってくれ。」
寒河江も赤倉も、えとあのはいとしゃっきりしない返事をするしかない。こんな義兄相手にあれだけ言いたい事を言い天童にすら突っ込むような奴を相手に自分らが出来る事などあるはずがないと思う。
「出来る事などないと思うのか。」
見透かしてきた主将の言葉に2人はぐさりと刺された心持ちになった。
「随分頻度は下がったが文緒も時折似た事を言う。ただ、」
まさかの語りが始まり寒河江と赤倉はお互い目配せをした。頭が状況に追いつかない。
「うちの文緒は先日までまったくバレーボールに慣れていなかった。だが俺に教えてほしいと言ってきてからほんの少しできる事が増えた。つまりそういう事だ。」
寒河江も赤倉も真面目に聞いていてふと寒河江はこう口にしていた。