第26章 ・他所の宿題 その1
「早起きは花いちもんめっ。」
文緒はゴンッとテーブルに額をぶつけた。たまにクラスメイトの五色が義兄の若利ばりに訳のわからないことを言い出すとこうなるがまさか他校の前でもなるとは夢にも思わない。思わず助けを求めるように谷地を見ると谷地は苦笑していた。
「うん、大体それがデフォルトかな。」
「何て事。」
「文緒さん、大丈夫。」
「私は大丈夫だよ日向、それより色んなもの混じってる。」
「そーなの。」
兄様がいなくて良かったと文緒は思った。こんな有様を義兄の若利が見たら何というだろうか。
「それを言うなら早起きは三文の徳、だよ。この問題の答えね。」
「あ、それだそれっ。でも鳥とか虫とかどゆこと。」
「直訳しちゃうと早起きの鳥は虫を捕まえるって事。」
言いながら文緒は日向の表情がみるみるうちに変わっていくことに気づく。このままではまた頭から煙を吹くような事態になりかねない。とは言えどういったものか。内心動揺しながら文緒はこう口にした。
「例えば日向が合宿行って、朝早いとこ起きなかったらご飯食べそこねちゃうでしょ。」
やぶれかぶれだった。こんなので納得してもらえるかなと文緒自身は半信半疑だ。だがしかし、
「そーかっ。」
日向の目が輝いた。
「早起き大事っ。」
「そうだね。」
それは否定しない。
「面白いよね、似たようなこと言ってても言葉が違うと全然表現違うから。」
ふと思うままを言う文緒は自分が無意識に微笑んでいる事に気がついていない。
「文緒さん、楽しい。」
気がつけば日向が不思議そうに顔を覗き込んでいた。
「うん。」
文緒は頷いた。
「知らなかった事を覚えられるって楽しい。日向もバレー覚え始めた時そうじゃなかった。」
日向は大きな目をパチクリさせた。
意外なことにその後日向は真剣だった。私何か変な言ったかなと自覚のない文緒は思う。
「文緒さん、featherって何。」
「羽とか羽毛とか。羽が生えるとか羽飾りをつけるって意味もあるよ。」
言うと日向は問題集の余白にカリカリと書き込むがふと呟く。
「羽ってwingじゃないの。」
こういう質問が出るのは日向にしては上出来なのか。