第25章 ・海へ行く話 終わり
「何だよ今の。」
瀬見がボソリと言った。顔が赤い。
「ふ、ふにゃふにゃしてた。」
文緒の隣に座っていた五色も顔が赤い。
「ふふーん、文緒ちゃん親衛隊の萌えを突いたみたいだねえ。」
「天童うるせえ、討伐すんぞ。」
「愛らしいのは確かだ。あまり人に見せるものでもないが。」
「うん、若利は惚気(のろけ)るのいい加減にしようか。」
「事実を言ったまでなのに大平にまで制止されるのは納得が行かない。」
文緒は眠り続けていた。
更に時間が経ち、夜道をノシノシポテポテ歩く義兄妹がいる。
「歩けているか。」
「大丈夫です。」
「そうか。楽しんだか。」
「はい。」
「そうか。」
「ただ慣れないのと天童さん達に突っ込むのに疲れました。」
「早く寝るといい。」
「そうします。」
ここで一度兄妹は沈黙し、しばらく足音や虫の音だけが響く。
「兄様」
やがて文緒が言った。
「機会があればまた行きましょう。」
若利は意外にも即答しなかった。
「いかがされました。」
「行く、のは構わないのだが」
「はい。」
「胡乱な奴の対策をもっと綿密にする必要がある。」
「確かに今日も妙に声をかけられました。余程兄様に乗っけられたりしたのが目立ったのでしょうね。」
「お前がまだわからないというのがわからない。」
「まあ何て事。」
文緒は心外だと思いつつもクスリと笑う。外灯のあまり強くない光に照らされた義兄の顔も微かに笑っていた。