第21章 ・海へ行く話 その2
しばらく沈黙が続く。義兄の若利相手なら慣れてきたそれも白布相手だと途端に落ち着かない。文緒はどうしよう何かお話しした方がでも仲良しこよしする気はないって言われたしと1人勝手に焦っていた。
そうして波の音と人々のざわめきが妙に耳につく中散々内心で焦った挙句文緒は奇行に走った。
白布からすればこいつ正気かと思った事だろう。文緒は義兄に着せられた上着の中に顔を隠していた。まるっきり小動物が巣穴に頭を引っ込めたみたいであり、控えめだが白布がぶっと吹き出したのが聞こえる。
「何やってんだお前。」
白布に聞かれて文緒はピョコンと顔を出した。
「何となく。大きいので頭が入りそうと思ったら本当に入ってしまいました。」
念押ししておくが文緒は素である。
「何で急にそんな発想にいたるんだよ。」
「申し訳ありません、本能的に。」
白布はフンと鼻を鳴らす。
「その辺やっぱり遠くても親戚なのな。」
「兄様は確かに天然ですが流石にここまではしないと思います。」
「自分は天然じゃないつもりかよ。」
「白布さんまで、と言いたいところですが少々言いづらいものがありますね。」
「言ってんじゃん、お前いつも遠回しのつもりでその実ストレートだぞ。」
「そうでしょうか。」
「大人しい顔して売られた喧嘩も何気に買うし。」
「あら、やっぱり厳しいですね。」
つい苦笑する文緒に白布はふとお前さ、と言う。文緒はどきりとした。白布の視線がまるで文緒の中を見透かそうとしているように見える。
「お前さ」
もう一度白布はゆっくりと言った。
「今更だけどそのお嬢様キャラ素だよな。」
文緒は素直にはいと答える。
「お嬢様かどうかはともかく勿論です。でもどうして。」
白布はいやと呟きそっぽを向く。
「今だから言うけど俺最初お前のそれ作ってんのかと思ってて内心嫌いだった。」
「そうでしたか。」
「意外と冷静だな。」
「いい子すぎるとかぶりっ子とかは前いた所でも言われてましたから。」
「それでもそんまま突き通すあたり頑固な奴。」
「私は不器用ですから。」
「そうだろうよ。」
白布は呟いてまたしばし2人は沈黙する。
「あの」
しばらくして文緒は恐る恐る尋ねてみた。