第3章 ・心配性
だめだこいつ何とかしないと
5時限目の授業が終わった時である。3-3の教室にて牛島若利がおもむろに立ち上がった。
「お、どっか行くのか。」
教室のドアの方へ向かう若利に同じクラスの山形が声をかける。
「1-4に行ってくる。」
言う若利に山形は一度おうと流したがすぐハッとしてガターンッと立ち上がった。クラスの他の奴らが何事かと凝視するがそれどころではない。
「ちょっ待てコラ若利っ。」
用件の見当がつくだけに山形は大慌てで若利の後を追いかけて声を上げる。
「やめろ馬鹿また学校中の噂になるぞおい話聞け戻って来いっ。」
だがしかし若利は高速で行ってしまい、あっという間に廊下の向こうへ姿を消した。
「だあああもうっ。」
山形は頭をガシガシやりながら叫ぶ。
「何でこーなるんだよっ、もー知らねーからなっ。」
おまけに通りすがりの教師にうるさいと注意され山形は更に納得の行かない目にあったのだった。
その頃若利は1-4の教室へ向かっていた。1年フロアの廊下をノシノシと歩いていると通りすがりの1年生達が3年だ、牛島先輩だとざわざわヒソヒソとやり出すが若利には全く聞こえていない。しまいめに1年生達はササッと示し合わせたように若利に道を開けた。気にしないまま若利は歩き続け、やがて1-4の教室に辿り着いていた。
早速たまたま開いていたドアから顔を覗かせると中にいたクラスの連中もまたざわめいた。牛島さんだ、どうしたのかな、五色君に用事じゃないのバレー部だしと言い合う。だが特に気にすることなく若利は近くにいた奴に言った。
「文緒はいるか。」
どの文緒かと聞き返されずに済むのは若利くらいのものだ。言われた奴は心の準備ができていなかったのか可哀想なくらい動揺し上ずった声ではいと返事をする。そこへ別の奴が文緒を呼んだがこいつは度胸のある奴だったのだろう、若利が眉をひそめる程度には呼び方に問題があった。
程なく聞きなれた抗議の声が返ってくる。
「私は文緒だってばっ。」
言いながら文緒がパタパタとかけてきた。
「それでどうしたの。あら兄様。」
「俺が呼んでもらった。だが少々妙な名で呼ばれているようだな。」
若利は呟く。