第19章 ・共有
「今こうしているのが嫌ではないか。」
「大丈夫です、兄様。」
義妹は微笑む。
「以前よりほんの少し出来るようになったので楽しいです。」
「そうか。」
言いながら自分の顔がついほころんでいた事を若利は知らない。
「良い事だ。」
文緒はつまりと言いたそうに小首を傾げた。愛らしいと思ったが今は置いておこうと若利は思う。
「つまり」
考えながら若利は呟きやがて気づけばこう口にしていた。
「どんな形であれお前がバレーを好きになってくれれば嬉しい。」
それはかつてあの人が自分に言った事だ。あの時あの人は何となく照れくさそうに笑っていたが今自分は文緒に対してどんな顔になっているのだろう。
当の義妹はきょとんとしていたがやがてにっこり笑った。
「兄様がそう望まれるのなら。」
「強制するつもりはない。ただ俺は」
言いかけた所で文緒が回収したボールを下に置いて抱きついてきた。流石に若利も驚きしかしそっと義妹の華奢な体を抱きしめ返す。
「俺はもっとお前と共有したいと思っている。」
抱きつく文緒の腕にささやかながら力がこもった。
「ならば私もそれに応えたいです。」
これはと若利は思う。文緒が抱きついているというより自分が抱きしめられているのではあるまいか。
またふと微笑みながら若利は呟く。
「そうか。」
何か感じるものはあるがそれ以上の言葉が出てこない。
「続けよう。」
「はい、兄様。」
またバレーボールが宙を舞う。文緒がトトトと走る。トンッという音がしてボールが若利の方へ飛んでくる。返す若利は顔には出ていないが何となく満足そうだ。
「大分狙って返せるようになったな。」
「そうでしょうか。深く考えておりませんでした。」
「お前らしい。」
「しかしどうもオーバーがうまく行きません。ボールとの距離が急にわからなくなります。」
「もっと慣れるところからか。」
「そうですね、兄様。」
「くれぐれも顔面には注意しろ。」
「確かに怪我をしたくはありません。」
若利はそれもそうだがと呟く。