第1章 《異常》
「京治…京治……一緒にいて…」
きっと近くで聞いている。
きっと近くに居る。
何故かそう確信があって呼ぶ愛しい彼の名前。
「京治、愛してるから…どこにも行かないから…何でもするから…お願い、一人にしないで」
部屋の隅で、彼はきっと来てくれると待つこと数分。
「ねぇ夏海、どうしてこんなことされてると思う?」
いつ入ってきたのだろうか。部屋の中で聞こえる彼の柔らかな声。やっぱり京治だったと、身体の力が抜ける。
「京治、ごめんなさい…分からないの。どうしてこうなっているのか、それまでの経緯が全く思い出せない…」
「いい子だね、夏海。それでいいんだよ。経緯なんて知らなくていい。俺だけを覚えて、俺だけを知って、俺だけを見て、俺だけを待って、俺だけを愛して、俺だけの為に生きていればいいんだよ。他にする事は何もない」
すぐ近くに彼を感じて、思わず抱きついた。彼の温度に嬉しくなって、強く強く抱き締める。
「最初はね、誰か知らない人に誘拐されたかと思って怖かったんだけど、京治との写真みたら、ああ、京治だ、きっと近くに居るんだろうなって。そしたらほんとに京治来てくれるし、今凄く嬉しい…」
そういうと、柔らかく唇を重ねてくれた彼。直に感じる彼の肌とその温もりが何だか切なくて、唇が離れた後、もう一度自分からキスをする。
「夏海はほんとにいい子だね…愛してるよ。閉じ込めて、独り占めするくらい…あぁ、もうほんとに全部好き…」
「私達ね、付き合いだして暫くして、周りの人に異常だって言われてたの、京治知ってる?」
そういえばと、かつて学校に通っていた頃友達に言われた、とある一言を思い出した。
「…知ってるよ」
私の肩口に顔を埋めながら答える彼。その頭を撫でながら続ける。
「お互いの愛が重すぎるって。言われたの…でもね、私は欲しかった。京治みたいに、私だけを見て、閉じ込めてしまうほどに愛してくれる人を。一般的に言う、重すぎる愛を求めてた」
黙って聞いてる彼。ゆっくりと服が肩から落ちていく感触がしたが、抵抗などはしない。
「そして俺は、夏海みたいに、重すぎる愛を受け止めてくれる、そのままの俺を、俺だけを愛してくれる人を求めてた…俺達、言われないと気が付かないくらい病んでるのかもね」