第1章 《異常》
《異常》
時計の短針が12を指している。外の光が一筋も入ってこないのは、きっと窓にかかっているのが遮光カーテンだからだろうと呑気に考えていた。
真っ暗な部屋の中、スマホに表示されるアナログ時計はゆっくりと時を刻んでいた。
ぼやけた意識が段々と鮮明になり、重い身体を起こす。ハッとしてスマホの電話帳やメール履歴、LINE、その他機能を確認した。
全て残っていたことに安心する。
「ここ、どこ…」
辺りを見回してみるも、電気の付いていないこの部屋は真っ暗で何も見えない。
立ち上がり、電気のスイッチを探そうとした。
「…え」
手と脚を後ろに引かれる感覚と、ジャラ、という金属の重たい音が耳に入ってくる。
どうやら鎖の様なもので縛られ、動けなくされているらしい。
何故今自分がこんなことになっているのか、思い出そうとしても記憶に靄がかかり、不可能だった。
もう一度スマホを操作して、私はふと気づいてしまった。途端に震え出す身体。
「ロックが…嘘でしょ…」
掛けていた筈のロックが解除されていた。
「どうして…さっき気づかなかったの…!」
震える手で電話帳を開き、1番上に表示されている名前をタップする。
耳にあたる冷たく硬い感触にぶるりと身体が震える。
小さな希望を持ってかけた電話。通話センターのお姉さんの声ぐらいは聞けるかと思ったが、あの無機質な呼出音すらなっていない。
力無く落した右手で、通信機能を一応調べてみたが、圏外という文字が虚しく浮かびあがっていた。
「解約…されてる…」
連絡先もアプリも全て残っているのに、何処へも繋がらないという精神的ダメージは大きかった。
ただ一つ、消されていたのは写真。
私と恋人である京治とのツーショットだけを残して消された写真。
それを見て、この状況を作り出したのが誰であるのか私は理解し、ほっとした。