第5章 《関係》R18
「赤葦先輩、好きな人、いるの?」
放課後の部室。俺以外の部員が着替え終わって、部室を軽く片付けていたとき。は唐突にそう訊いてきた。部室内からは、ドアの所に立っているの表情は逆光で見えない。今までお互い、触れてこなかった話題を、抑揚なくスルリと言った。
…付け入るチャンスだと、思った。
「…いる、よ。でもね、もう俺にはどうすることも出来ない。その人には、好きな人が居るんだ。」
は黙ったままだった。数秒空いて、「そっか」と小さく囁くような声が聞こえた。ドアを閉めて、俺の近くに寄ってくる。好都合だ。仕掛ける頃合だと思った。
「は?好きな人、いるの?」
なるべく、優しめのトーンで。でも、少し辛さを滲ませるように。俺もに訊いてみる。
「うん…いるよ。でもね、私もどうしようもない人、好きになっちゃった」
やっぱりそうかと。分かってはいても、心の奥底に抑え込んだ感情にチクリと針が刺さった。心のどこかで、が木兎さんを好きなんて、俺の勘違いであって欲しいと思っていたのかも知れない……そんな筈、ないのに。
「ねぇ、。お互い手の届かない人に恋しちゃったんだね。」
「うん、そうだね…私達、似てるね」
床に座って、近くでの顔を見る。「似てるね」と言った彼女の表情は痛々しく、こころなしか声も小さく震えていた気がする。
「」
名前を呼ぶと、泣きそうな顔でふにゃりと笑った。そんな彼女を思わず抱き締めて、俺は最後の賭けに出る。これにがのれば、これからはもっと近くで、を感じていられる。触れていられる。
…身体だけでも愛してあげられる。
…木兎さんの代わりでも、愛を注いであげられる。
「ねぇ、…」