第1章 一緒に帰ろう。
3時間の練習が終わりぞろぞろと片付けが始まって
着替えて、少し話した後みんなとは逆方向に向かう。
もう時刻はすでに7時半。
風が冷たい季節になってきた。あたりは真っ暗で人影が少ない。
その時だった。後ろから、声をかけられる。
「ひな」
聞いたことのある声にびくんっ!と体が跳ね、
振り向くとそこには先生がいた。
「おっ、やっぱりひなだ!
こっちの道でこの時間に帰る人はひなしかいないと思ったんだよ!」
少し自慢げに笑う先生は、いつもと違って見えた。
暗いせいなのか、ただ会いたかっただけなのか。
「でもくりちゃん、いつもこの時間にいなくない?」
そんな自慢げな先生を儚げなく見つめながら問う。
「えっ?いつもこの時間だよ
さすがにいつも生徒と帰るわけにはいかないからね」
「……声かけるのは今日だけ?」
「…?」
はっ、と自分が言った一言が恥ずかしくなり顔が赤くなる。
ちらっ、と先生の方に目をやると、暗闇だったがかすかにほおが赤くなっているのがわかった。
しばらくの沈黙が続いた。
足音だけが暗闇に消えていく。
好き。
好き。
好き。
溢れ出しそうな気持ちを堪えて堪えて。
でも、抑えられないものは抑えられない。
"好き"が涙となってぽろぽろこぼれていく。
その場にうずくまる。
数歩先を歩いていた先生はひなのことに気がつき駆け寄る。
「どうした?」
心配そうに顔をのぞかせる。
そんな優しい声で言わないで。
そんな優しい目で見ないで。
気持ちが…溢れる…。
「……き。」
「ん?なに?」
「…すき。」