第1章 Umbrella【1】
「だってすっごい心臓がドキドキってしてて面白かった」
カァァッとまた顔に血が上った。
仕方がないだろう。
俺だって男だ。
しかも思春期で、女の子をああいう風に抱きしめたことなんて一度もないし、が女の子だって意識しちゃったし、そう考えたら毎日一緒に帰っている俺達はまるで……。
そんなことを考えていたけど、目の前でおかしそうに笑う彼女を見ていたらなんかばからしくなって、一緒に笑った。
「じゃあ、また明日ね」
「また明日」
こうして俺達は別れる。
それが毎日の日課。
次の日もその次の日も雨が降った。
いつも通りの一つ傘の中、笑顔が二つ。
いつも通りの赤色のタイルを踏んで、いつも通り二人一緒にびしょ濡れになる。
だけど今日は少しだけ違った。
いつもの街灯の下、段ボールが置いてあった。
「猫だ」
がそう呟く。
段ボールの中には彼女が言った通り猫が2匹いた。
大きさからすると子猫だろう。
ミーミーとか細い声で鳴いている猫に心臓がきゅっと縮こまる。
雨に濡れているその体はとても寒そうだ。
だけどごめん、俺の家はペット禁止なんだ。
何もできずにただ突っ立っていると、隣でがかばんの中から折り畳みの傘を取り出して、子猫たちに傘を差してやった。
「これで濡れないね!」
にこりと笑う。
「傘、持ってるんだ」
「持ってるよ。いつも常備してる」
「……じゃあなんで差さないの?」
「だって、差してくれる人がいるもん」
まっすぐに俺を見つめる。
彼女の真剣な瞳に俺は何も言えなくなる。
そんな俺の腕を引いて歩き出す。
傘の中、二人きり。
沈黙が続く、水たまりが跳ねる、雨の音が少しだけ耳障りだ。
「本当の理由は違うんだ」