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Umbrella【縁下 力】

第6章 Umbrella【6】






その日は朝から雨が降っていた。
大きな傘を差して学校へ行く。
教室はざわざわしていた。
中の様子をみるとそこにはびしょ濡れになったの姿が。
雨に打たれて学校へ来たのか。

「どうしたの?」
「子猫がいたから傘を差したの。そしたら私は濡れちゃった」
「タオルで拭かないと風邪ひいちゃうよ」

鞄の中からタオルを一枚取り出し、彼女に渡す。
頭を拭いて、制服を拭いて、脚を拭いて。
ある程度拭き終わった彼女はタオルを俺に渡してくる。

「洗った方がいい?」
「いいよ、平気」
「わかった」

タオルを受け取って鞄にしまう。
以前もこうして彼女にタオルを渡したことを思い出した。

雨は放課後になっても止まずにずっと降り続ける。
傘がないは玄関先で突っ立ったまま。
俺は少しだけ大きい傘の中に彼女を招き入れる。

「一緒に帰ろう」
「うん」

ぱしゃん。
足元の水たまりを踏んで傘の中へ。
あの時よりも狭い傘の中。
早く大人になりたいと思った。
そうしたら君を守れると思った。

だけど、何も変わらない。
それでもいいと思った。
あの時の俺に言いたい。

俺は俺を許そう。
あの時、俺ももお互いの本心を隠していた。
傷みを知るのを怖がっていた。
だけど今は違う。
お互いの傷みがわかる。
だからこうして笑っていられる。

相合傘の中笑顔が二つ。

「縁下くん、また明日」
「また、明日」

俺達は手を振って別れる。
そうやってずっとこの関係は続いていくのだろう。

彼女と別れ、一人家へと戻る。
相合傘ひとりぼっち。
胸の中に広がるこの気持ち。

その気持ちを抱きしめて、俺は一人、雨の中涙を零した。



End.




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