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Umbrella【縁下 力】

第6章 Umbrella【6】





「しかしもったいねえよなぁ。お似合いなのに付き合ってねえなんて」

がっかりしたように言う田中に俺は乾いた笑みを浮かべる。
たった一日だけ彼女でしたなんて言えないし言う必要もない。
とは今でも一緒に帰っている。
そして以前よりも告白されることが多くなった。
誰とも付き合う気がないようでそれらすべてを断っている。
たまにだれかと連絡しているのを見かける。
その誰かとは数週間前に発覚した。

「誰とメールしてるの?」
「黒尾くんだよ。あと研磨くんともメールしてるの」
「へえ」
「春高行くよって」
「そっか。久しぶりに会うから楽しみだね」
「うん。縁下くんも楽しみだね」
「え?」
「また試合できるから」

その言葉に俺は笑った。
黒尾さんとはを通じてメール交換、LINE交換をした。
そして彼もまた彼女のことを好きだと知って驚いたが、でも納得はした。
俺も彼女と一日だけ付き合ったがそれでも"友達"の関係がちょうどいいってことを話したら、「そうか」って返答されて、安心したのを覚えている。

見た目は胡散臭い人だけど、人のことをしっかり見ている人。
黒尾さんもまたきっと彼女の彼氏を望んではいない。
それでいいんだと思う。

俺は彼女が生きているだけで、それだけで愛おしい。
あの日、いじめに遭って死ぬことを考えていた中学生時代のことを思うと、生きているだけでそれだけで俺は十分なのだ。
これからも彼女と笑って話せるなら彼氏になんてなれなくてもいい。
隣に立てなくてもいい。
笑って生きてさえくれれば。


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