第5章 Umbrella【5】
ファーストキスはレモンの味だなんてよく言ったものだ。
味なんてわからない。
唇を離して彼女と目が合う。
大きな瞳が俺を映して、正気に戻った俺は自分が今どれだけひどいことをしたかを思い知る。
「ご、ごめん!!俺勝手に……」
「どうして謝るの」
「どうしてって……。だって今俺にキスしたし……」
火照る頬を見られたくなくて袖で顔を覆う。
その時、制服の裾が引っ張られた。
なんだろうと顔を上げると、唇を塞がれた。
あまりに唐突で、一瞬何が起こったかわからない。
ゆっくりと離される唇。
驚きで彼女を見つめる。
は自分の唇を人差し指でなぞる。
その仕草が妖艶に見えて、心が苦しい。
「好きって……」
小さな声が耳に届いた。
はゆっくりと俺を見る。
「好きって、こういう気持ちなの?」
「え?」
「泣きたいくらい苦しいの、今」
「……」
「縁下くんに……縁下くんに、触れたいって思ってしまう」
大きな瞳から涙が零れた。
嗚咽を漏らしながら、胸を抑えてその場にしゃがみ込む。
俺は彼女の背中をさする。
それでも泣き止むことなく泣き続ける。
「は、その……俺のこと好きなの……?」
「わからない……。わからないけど、でも熱くて苦しい」
「そっか……。あの、さ。俺とキスしたの嫌だった?」
首を横に振る。
、俺自惚れてもいい?
君が俺を好きだって。
「今日はもう帰ろう。少し落ち着くといいよ」
鼻を啜るの肩を持って俺は歩き出す。
俺も君も怖いんだ。
誰かを好きになることが。
誰かの心の奥を覗くことが。