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Umbrella【縁下 力】

第5章 Umbrella【5】






の家まで行き、彼女が玄関に入るまで見送る。
家の中に入ろうとする彼女の背中に声をかけた。

「、また明日」

小さく手を振れば彼女も手を振りかえしてくれる。

「また、明日……」

今はそれだけでいい。
彼女が自分の気持ちを知るのが怖いと言うのなら、知らなくてもいい。
彼女の傍にいられるのなら、どんな形だっていいんだ。

俺は、彼女が隠していた痛みを一つ残らず知ってしまった。
今度は傷つけたりなんてしない。
傷ついたのなら俺も同じだけ傷つこう。
分かち合えなくてもいい。



次の日。

学校へ行こうと玄関を開けると、そこにはがいた。
まさかいるとは思わなくて目を見開く。
彼女は、俺の姿をみると恥ずかしいのだろうか。
下を向き、もじもじとする。

「どうしたの?」
「縁下くんにいいたいことがあって」
「なに?」

大きく息を吸って吐いて。
何度も繰り返す。
何かを言いたそうに口を開くが声が喉で止まるのだろう。
金魚のように何度も口をパクパクして俺は思わず笑う。

「なんで笑うの?」
「ごめんごめん。なんか面白くて」
「ひどい」
「学校に行こうか」

二人並んで登校。
朝練は今日はないからゆっくりとした歩幅で。
小さな歩幅のに合わせて。
ゆっくりゆっくり。

「で、言いたいことって?」

話を戻せば、先ほどまで楽しそうに話していたは股下を俯く。
彼女が話しだすまで俺はじっと待つ。

「昨日の事覚えている?」
「……覚えているよ」

忘れるはずないだろう。

「ずっと考えていて。不思議な気持ち。初めてだった」
「うん……」
「あれが"好き"っていう感情なら、きっと私は縁下くんが"好き"なんだと思う」

俺の左手に感じる温もり。
左手にはの右手があった。

「嫌じゃない。縁下くんに触れたいって思った。縁下くんに触れられたいと思った」

顔を真っ赤にする。
俺もきっと彼女を同じ顔をしている。

「……俺、もと同じことずっと思ってた」

俺の左手を握る右手を握った。
お互いに顔を見合わせて、笑った。


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