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Umbrella【縁下 力】

第5章 Umbrella【5】





部活が終わった後、教室へ行く。
今日は放課後に校内案内をすると言っていたため、入部届を出すのは明日となった。
そのことを部長である澤村さんに話す。
俺の雰囲気がいつもと少し違っていたのか、澤村さんは「何かあったのか」と聞いてきたが、俺は首を振った。
世話焼きの澤村さんのことだ。
なんとなく俺との間に"何か"があるということはわかっているだろう。
中身までは知らずとも。

部活が終わってあの頃のように教室へ向かう。
扉を開けると、窓際に彼女がいた。
くるりと振り返り、白い歯を見せた。

ズキン、と胸が痛んだ。
あの日、しとしと降る雨を見つめる彼女の顔を思い出してしまった。

″もう君とは帰らない"

あの日、君を護るために吐き出そうとした言葉が蘇る。
だけど言わなかった。
行ってしまったら終わってしまうようなそんな感じがしたから。

「……帰ろう」
「うん」

軽い足取りで俺の方へ来る。
何も変わらない。
何も変われない。
俺はあの日に縛り付けられている。

帰り道は静かだった。
何を話せばいいのか。
わからない。

「あ、見て!!」

急に大声を出す。
どうしたのかと彼女を見ると、無邪気な笑顔を向けて前を指さす。

「色違いのタイルがあるよ!!」

目の前に広がるのは赤と白の色違いのタイル。
雨の中、赤色のタイルだけを踏んで遊んだ帰り道。
それは小学生の遊び。
中学生になってからはそんなことしなくなった。
高校生になればなおさら。

だけど俺達は遊んだんだ。
雨の中、二人笑いあって赤色のタイルを踏んだ。
でも、君が転校してしまったあの日から俺はこの道を憎んだ。
君を思い出して、自分の弱さを嫌でも知ってしまうから。

「マンホールはセーフね」

走り出して、彼女は赤色のタイルを踏む。
その度にスカートがなびく。
ひどく悲しくて、泣き出したくなった。

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