第5章 Umbrella【5】
GWが終わって6月を迎えた。
梅雨の時期がやってくる。
嫌でもあの日のことが頭の中で映像として蘇る。
あの日、黒尾さんの口から出た彼女の名前。
その日からずっと彼女のことが気になった。
言えないことが今よりたくさんあった。
あの時の虚無感を今でも覚えている。
忘れられるはずなんてない。
今まで忘れたことなんて一度もない。
俺の隣から彼女がいなくなってしまったこと。
分かち合えなかった遠い日のこと。
寂しいと思った。
苦しいと思った。
謝りたい。
会いたい。
こんな当たり前を思うだけで、胸が苦しくなって景色が歪む。
それでも引っ越した土地で彼女が笑ってくれているのなら。
傷つくことなく過ごせているのなら。
「今日は転校生を紹介するぞ」
朝のHRの時間、担任がその言葉に、ざわざわと騒がしくなる教室。
だけど俺はそれを聞き流し、ざあざあと降る雨を眺めていた。
雨の中くるくると回る彼女を思うだけで涙が溢れる。
会いたい。
会いたい。
一目でいいからに会いたい。
「東京から転校してきたです」
耳を疑った。
ゆっくりと窓から教卓の方へと目を移す。
そこには、見覚えのある女の子がいた。
俺が傷つけてしまった女の子。
ずっと会いたいと願っていた。
その女の子が今目の前にいる。
椅子から立ち上がって思わず名を呼んだ。
クラスの連中が俺を見る。
だけど、そんなの気にならないほど俺の心はいろんな感情で満たされていて、言いたいことがたくさんあるのに、声が喉の奥でつっかえる。
泣きそうになる俺に彼女は、あの日と変わらない真っ白な歯を見せて満面の笑みを見せてくれた
「久しぶり、縁下くん」
一筋の涙が頬を伝った。