第5章 Umbrella【5】
GWの時、因縁のライバル校である音駒高校と練習試合をした。
俺はレギュラーではなかったため、得点係をしたわけだが音駒高校の方が一枚上手で、俺達はボロボロに負けた。
それでも今まで謹慎中だった西谷や、部活に来ていなかった旭さんが戻ってきてなんとかチームとしての形ができるんじゃないかと思った。
「縁下、そっちのポール片付けてくれ」
「はい!」
音駒高校の人たちと、片づけをしていたときものすごい視線を感じた。
何だろうと思って周りを見渡したら音駒高校の一人が俺を見ていた。
トサカみたいな髪の毛をした、音駒高校の主将。
確か、名前は黒尾鉄朗。
黒尾さんはゆっくりと近づいてくる。
なにか知らぬうちにしでかしたのかもしれないと身構えていたら、
「君、えんのしたクン?」
「は、はい……」
「ふ~ん」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて俺をまじまじと見る。
「」
その名前に目を見開いた。
どうして彼女の名前をこの人が知っているんだ。
彼女は東京に引っ越したと言っていた。
進学した高校が音駒高校なのか。
「やっぱり君がえんのしたクンか」
一人納得したように何度も頷く。
黒尾さんが彼女のことを知っているというのなら、彼女の過去も彼はきっと知っている。
俺が彼女を傷つけたこと。
「あ、の。一つお聞きしてもいいですか」
「なんだ?」
「は……元気ですか」
か細い声だった。
彼女のことを思うと胸が苦しくなる。
会いたい、会いたくない。
「それを聞いてどうするの」
冷たい声だった。
だよな。
いじめを見て見ぬフリをした人物に今現在の彼女のことを教えるわけがない。
罪の意識とかそんなのただのきれいごとなんだ。
「彼女の事、よろしくお願いします」
何をお願いするのか。
ただ彼女がもう傷つく姿は見たくない。
彼女には笑っていてほしいんだ、心から。