第1章 Umbrella【1】
それから月日が経って6月となった。
6月と言えば梅雨の時期だ。
梅雨の時期と言えば、雨だ。
彼女はほとんど毎日濡れて登校してきた。
何度か先生に注意されたのも見た。
だけどやめる気はさらさらないらしい。
次の日もそのまた次の日も制服を濡らして、雨の中を踊っていた。
くるりくるくる。
なにがそんなに楽しいのか、彼女は口を開けて笑って回り続ける。
そう言えば。
彼女の笑った顔、教室で一度も見たことがない。
彼女が笑う時は必ずと言っていい程雨の中だ。
そりゃそうか。
こんな陰口ばかりの教室で笑ってなんていられない。
濡れた制服のまま教室に入れば、ひそひそとした話し声がクラスを埋め尽くす。
「床拭けよ」
「汚いんだよ」
「まじでキモい」
「もう学校にくんなっつうの」
一見すればこれはいじめに入るのかもしれない。
だけど、中学生の「日常」なんてこんなもんだ。
悪口なんてみんな言っている。
「多数」が集まればそれはもう「普通」になるのだ。
そんな彼女を見て、俺はなんだかかわいそうになってきた。
彼女はいつも一人だ。
話す相手もいない。
雨の中、あんなに楽しそうに笑っていた彼女は、教室では口を一門字に結んで笑う気配なんて一切ない。
かわいそうだとは思う。
思うけど、それ以上何ができるわけでもないから何もしない。