第1章 Umbrella【1】
そんなことを思っていた俺だったが、今日と言う日に変化が起きた。
それは今日の部活が職員会議のせいでなくなったところから始まる。
久しぶりの早めの帰宅ということで、部活仲間はこのあと遊びに行こうという話になった。
俺はそれを断りまっすぐ家に帰ろうと玄関に足を運ぶ。
ふとグラウンドを見る。
彼女と同じクラスになってから変な癖がついてしまった。
気が付いたらグラウンドを見てしまう。
つい見てしまう。
彼女は今日もいるだろうか、なんて思いながら。
そしていた。
いつもと同じ。
今日の朝登校してきたときに濡らした制服を着て、彼女は回っている。
せっかく先生が乾かしてやってんのに、また濡らしてる。
くるりと回る。
嬉しそうに、楽しそうに。
普段は無視をしている。
何も見ていないかのように。
何も無かったかのように。
だけどこの日は違った。
彼女に近づいて、声をかけた。
なぜこんなことをしてしまったのか自分でもわからない。
「一緒に帰ろう」
そう声をかければ、きょとんとした顔が俺を見る。
だがそれは一瞬のこと。
彼女は白い歯を見せて笑った。
あ、この顔。
教室じゃ見せてくれない笑顔だ。
彼女の笑った顔をちゃんとみたのは初めてだ。
少しだけドキリとした。
彼女は足元の水たまりを踏む。
若干俺の制服の裾にも跳ねた。
だけど嫌な気はしない。
それはきっと彼女がなんの抵抗もなしに傘の中に入ってきたから。
全身びしょ濡れで、俺はかばんの中からタオルを一枚取り出して彼女に渡す。
「大丈夫」
また白い歯を見せて笑った。
少し大きめのビニール傘。
中学生の男女が中にはいったところで狭いなんてことはない。
なぜかそのことに少しだけショックを受けた。
自分の身体の小ささがわかってしまうから。
早く大きくなりたいと思った。